あなたの笑顔を守るために

舞台を観るのが生き甲斐なヅカ&ジャニオタ

2020夏、観劇記録(壮麗帝編)

真夏のそらに満開になった、季節外れの桜のおはなし。




* * * * *


演目発表から10か月!
当初の初日から4か月以上!

…しかもまさか、先に再開した花&星がまさかの中断になってる状況下での公演になるとは思いませんでした…

いやぁほんとコロナってやつは、95期になにか恨みでも?(言いがかり)


それだけ熟成期間を経た、
濃密な、重厚な舞台でした。
画面越しでも、熱かったのなんの。


舞台は16世紀オスマン帝国
帝国を、中東~ヨーロッパ(現在のイラクハンガリーに接するあたり)まで、
最大の繁栄に導いた第10代皇帝スレイマン1世のお話。

出自は関係なく、たとえ奴隷からであっても、
能力さえあれば登用されるのが特徴のこの時代のオスマン帝国
レイマン1世にも、奴隷上がりの腹心の部下と、寵姫がいて。
けれど、スレイマンはあるときその片腕の部下を自ら処刑してしまう。
失策の責任を取らせたとも、思い上がりが原因とも言われているが真実は不明…

演目が決まってWikiを読み漁った時点から、
何度叫んだことでしょう…


こんなずんそらが観たかった!!!


真実が不明ってことは創作していいってことですしね(?)

こんなずんそらが観れたらもう思い残すことは…あるけど(あるんかい)、
本当に本当に樫畑先生にはお中元でも年貢でも収めたい気分です(五体投地


* * * * *


(以下敬称略)

物語序盤は、
青年期のスレイマン(桜木)とイブラヒム(和希)の出会いから始まります。

イブラヒムに剣の相手を命ずるスレイマン
皇子相手ということで遠慮が出てしまうイブラヒムを、スレイマン咎め鼓舞します。

このスレイマンがね~~~もうまさに、"上に立つ者"って感じの物言いでねぇ。
「身についた奴隷根性がそうさせるのかぁ?」(セリフは全てうろ覚えです)
って爽やかな笑顔で言い放って、はっ…と恐縮するイブラヒム。

無邪気で楽しい場面なんだけど。
たぶんスレイマンは、本心から「奴隷という出自なんて関係ない、その気があるなら登用してやるぞ!」って思っていたんだろうけど。

観ていて、なぜか「重苦しさ」を感じてしまったんです。
…なんだろう、上手く言葉にできないんだけど…
動かせない、大きな重い石のような…。



2幕で人間関係が大きく動いていきますが、
もちろんその中の一番の山場は「イブラヒムの処刑」。

仲違い、とか、裏切りとか誤解とか、宝塚ではよくある題材ですが、
レイマンとイブラヒムは…何が辛かったって、
「このときこうしてればこうならなかったのに~~~」ってのが、すぐには答えが見つからなかったんですよね(今でもあんまり見つかってない)。


レイマンの人柄をよく現している場面が、
イブラヒムがサファヴィー朝と通じているのでは、と疑念を持ったとき、
勝手に憶測で疑念を膨らませるのではなくて、
きちんとイブラヒムに直に問い詰めるんですよね。
真っ直ぐに臣下と向かい合うひと。それがスレイマン

そして、「二度とサファヴィーとは通じるな」と釘を刺して。
…スレイマンの中では、それで終わったことになってたんだろうなって。
まさか自分の忠告を無視してその後もサファヴィーとの関係が続いているとは、
しかも自分に黙ったまま…とは、露ほどもスレイマンは思っていなかったんだろうなと思います。

イブラヒムがサファヴィー朝のタスマースブ(真白)との面会をセッティングしたときも、
絶対怪しいと、罠の可能性だってあると読んでいたはずなのに、
「わかった、会おう」と言える心の広いスレイマン

そんな、スレイマンの純粋さとか、自信とか…が、
裏目に出てしまったのかな。…悲しい。


きっと、
レイマンは、イブラヒムになんでも聞ける関係であって、
だからこそ、イブラヒムも自分になんでも言ってくるはず、と思っていた…
そこが、直接の食い違いなんじゃないかなぁと…。


イブラヒムのほうは…何故スレイマンに黙ってことを進めていたのだろう…。
レイマンは、祖父の代からサファヴィー朝には痛い目に遭わされてきて、
簡単に信用してはいけない相手だと思っていたけど、
イブラヒムはそこまでとは思っていなかったからすんなり信じてしまった…とかいう誤解の元はあると思うんですけど、
それでもきちんと話をすれば分かり合えたと思うんだけどな…。
(みなまで説明しなくてもイブラヒムはわかっているだろう、というスレイマンの驕りもあったのかもしれない…)


レイマンの優しさって、「甘さ」「弱さ」でもあったと思っていて、
1幕で、イブラヒムがスレイマンに黙って奴隷商人を殺す場面あるじゃないですか。
あれ…スレイマンが気づいていないとしたら甘いし、
たぶんそんなことはないだろうから、薄々気づいていて、自分の嫌なこと(=人を殺める)はイブラヒムに任せていて、
それは信頼でもあったけど、
その「黙って任せている」っていう信頼関係が、サファヴィー朝のこととなると、独断で動く⇒罠にかかる、となってしまった…

はぁ悲しい。*1

(そら担さんから見たイブラヒム視点からの御意見も聞いてみたいです…)


ただ、ひとついえるのは、
どの方向から考察しても、最終的には
「スレイマンとイブラヒムの身分差、ものの見方の違い」
っていう原因にたどり着いてしまうんですよね…

奴隷であることなど気にするなと。対等に向かって来いと、本心からそう言った、
でも人の意識はそう簡単には変えられなくて、
イブラヒムはスレイマンに対してずっと「身分差」を感じていて(そりゃそうに決まってるのですが)、
なんなら「奴隷根性が」というあの一言が、ずーっとイブラヒムに重い石のように圧し掛かっていてしまったのかな…。


サファヴィー朝とのこと以外で、
優秀なイブラヒムの、スレイマンとは異なる視点からの意見が功を奏したこと、
きっと何回も何回もあったんだろうにな。


* * * * *


「異なる視点、違う立場からの意見」
という話になると、
どうしてもSAPAのことが過ぎります。


SAPA感想
hiroko-1116.hatenablog.com


SAPAの総統が目指したのは、「違いを排除した争いのない世界」。

…でも、役柄じゃなくて「役者」という中の人の立ち位置になったとき、
「違い」を奪われるって、致命的なことなんですよね。
「違い」=「個性」だから。
「個性」のない「役者」に存在意義はないので。

逆にいうと、作品をつくるとき、
「個性を出すことを求める」なら、そこには「争い(…っていうと穏やかじゃないなぁ、「意見の対立」かな)」は不可避なんだろうなぁ。

宝塚を観ていて、
組によって、
あるいは同じ組でも場面によって、
「個性」よりも「統一感」を優先しているなと思う場面ももちろんあります。

でも、今の宙組は、あらゆる場面で個性が爆発しがちな組ですよね。

きっとSAPAも壮麗帝も、
つくる過程では、全員の個性が強いからこそ、意見の相違もあったんだろうなって。

それを、総統のように「個性を失くして統制する」のでもなく、
レイマンとイブラヒムの悲劇のように「黙ってわかった気になっている」のでもなく、
違う意見をきちんと交換し、認め合い、よりよいものを目指していく…
真風さんの率いている宙組には、そんな雰囲気を感じます。


* * * * *


壮麗帝の話に戻ると…

個人的に一番好きになった役、ジェンヌさんはハティージェ(天彩)かもしれない(^^)
天衣無縫…という言葉がぴったりで、
兄ににて、彼女も身分差など気にせず真っ直ぐイブラヒムを愛していたし、
ヒュッレム(遥羽)を認めていたのだと思います。
それでいて、王族ゆえの芯の強さ、聡明さもあって…。

イブラヒムが処刑に至るシーンは涙が止まりませんでした。


上級生も下級生もみーんな熱かったなー。
アフメト(鷹翔)最高。
セリム(希峰)、アルヴィーゼ(澄風)、ムスタファ(風色)、
なんといってもタスマースブ真白、
みーんなすごかった。


ずんららに関しては、もう。ここで書けるだけの語彙力が()
ラブシーン、キスシーンをこれでもかって見せて頂いてありがとうございます樫畑先生…

観劇から2週間経って…一番心に刺さって何度も何度も思い返すのは、
「お前が倒れたと聞いたとき…どうなるかと思った…」とヒュッレムを抱き締めるシーンです。
あのワンシーンに、スレイマンの人となり、優しさ、愛情深さ、脆さ、弱さ、
全てが出ていたと思います。

…皇帝とは。
大事な人と離れ離れになること、その間に危険にさらされることもあるし、
国を守るためには、それを受け入れないといけないこともある。*2
オスマンの一夫多妻の掟って、たくさん後継者を作るためはもちろんあるけど、
精神的な拠り所という意味もあると思うんですよね…
一夫一妻だと、その1人の正妻=皇帝の弱み、になっちゃう。
争いでなくても、病気で命を落とすことだって珍しくない時代なわけだし、
正妻を失って精神的に揺らぐより、一人失っても他にいる…っていう考え方というか。
…それでもスレイマンは、たったひとりだけを愛することを選んだ。


SAPAは、裏返せば「憎しみ」「争い」になってしまう「愛」。
壮麗帝は、「弱さ」「脆さ」と紙一重の「愛」。

どちらもかなしい。


…スレイマンも本当はどこかでわかっていたのかもしれない。
兄のトラウマがあって、
人を斬れない、側室を持ちたくない、自分の弱さ。
…戯れに、奴隷をひとり助けてしまった甘さ。*3
イブラヒムも、ムスタファも、
「皇帝の任務」なら、感情抜きに処刑しなくてはいけないのに。

でもそれを全て受け入れてくれたのが、
「あなたと生きたい」と真っ直ぐに見つめてくれたのが、ヒュッレムだった―――。

「時にはおやすみになってください、陛下もひとりの民です」
「…そうはいかない、民である前に皇帝なのだから―――」
このセリフも重い…。


ラストの玉座に向かうシーン、
予め観劇してた友達からは、孤独で、悲壮感を背負って…と聞いていました。

でも、千秋楽の陛下の表情は、
何か大きな力を得たような…強い覚悟で全てを受け入れたような、自信に溢れた堂々とした表情に見えて。


イブラヒムの処刑のあたりからずっとふぇぇ~って泣いてましたが、
玉座のシーンは、画面の前で、声上げてわんわん嗚咽でした…

そのときの気持ちは、
ヒュッレムに感情移入して、皇帝として歩み続けないといけないスレイマンの傍に居られない、支えてあげられない辛さ悲しさと、
でも、ずんちゃんは皇帝じゃないからこれからも傍にいられる、
大勢みんなで、これからもずっと応援していける…っていう嬉しさとごちゃまぜで(笑)

何言ってんだこいつって感じですね、はい(笑)



本当に本当に、上演できてよかった…!
ライブ配信してもらえて良かった~(涙)
一生忘れられない奇跡の公演です。
ずんちゃん率いる壮麗帝チーム、本当に本当にお疲れさまでした…!

*1:オスマンがヨーロッパに支配されてしまったら、出自で人生が決まる国になってしまう…という恐ろしさもイブラヒムにはあったのだと思います

*2:ずんちゃんで虞美人観たいなぁ…項羽…。虞を寵愛しすぎて戦場にまで連れていって、でも最期四面楚歌になって自ら手にかけないといけなくなっちゃうの…

*3:そのために奴隷商人1人死ぬことになるのに